言葉で治療

レビー小体型認知症で、筋固縮、意識障害が強く、コミュニケーションの困難な方がいます。
声をかけても、なかなか返事もしてもらえません。
診察時には言葉は久しく聞いていない気がします。
薬もいろいろ試しましたが、なかなか劇的に改善というわけもいかず、用量を間違えるとすぐに調子を崩してしまいます。

患者さんの奥様は、いろいろと勉強され、介護も一生懸命されています。
体が固いなかでの着替えや、排便の処理など…。
声をかけてもほとんど反応がありません。
その苦労は大変なものです。
施設にあずけるしかないか…と弱音もたびたび聞かれるようになりました。

そんななか、奥様が「お父さん、大好きだよ」と声をかけました。
そうしたら、
「お母さん、大好きだよ」
と返事をしてくれたというのです!

そのあとも、なるべく優しい言葉をかけるようにしたら、しっかりと返事をしてくれるようになることが増えたそうです。
奥様もとても笑顔が増えました。

診察の時も、今までにないくらいちゃんと返事をしてくれ、発語も増えていました。
内服薬は何も調整していません。

体の動きも良いそうです。

「言葉が治療した」
と感じました。

いつも声をほとんど発さず、反応もない方ですが、ちゃんと周りの言葉を理解しているのです。
愛のある言葉はしっかりと伝わるんです。

「ありがとう、好きだよ、愛してる」など、プラスの言葉をどんどんかけてみてください。
言うのはタダですから。
やってみる価値はあります。

介護をしていると、疲れやストレスからなかなか優しくなれないと思います。
心の余裕がなくなってしまいます。
しかしそこでマイナスの対応を続けていたら、どんどん泥沼にはまってしまいます。
マイナスの対応をしていると、相手からもマイナスの反応しか返ってきません。
認知症であれば周辺症状が悪化し、余計に介護が大変になっていきます。
自分が発したマイナスの対応が、自分に跳ね返ってきて結局自分の首を絞めてしまいます。
どこかで流れを変えないといけません。

一度がんばって「ありがとう、大好きだよ」と声をかけてみてください。
なにかオカルト的になってしまうかもしれませんが、相手の魂には必ず通じています。
目に見えて良い反応が返ってこないかもしれません。
それでも言い続けてみてください。

実は、自分で言い続けていると、自分自身を癒やすことにもなります。
自分で発した言葉を自分自身の耳で聞き、それがプラスの方向に動き出します。

きっと何かが変わるはずです。

介護はとても大変です。冷たい言葉をかけてしまったり、冷たい対応をとってしまうのは仕方ありません。
完璧な人間などいません。
でもそんな自分に気づいたら、相手には「ごめんなさい、大好きだよ」
自分には「許します」と言ってみてください。
自分を責める必要はありません。

自分も以前から診察時にはなるべくマイナスの言葉は使わないように気をつけています。
プラスの言葉を多く使うようにしています。
しかし、患者さんに向かって「大好きだよ」とか「愛してる」なんて声をかけることはできません。
そんなこと言ったらかなり怪しい人間になってしまいます…。
ぜひ家族の方から強力な愛ある言葉をかけてあげてください。

ちなみに「お母さん、大好きだよ」との返事のあとには、もう一言あったようです。
「でもときどき恐いこともあるけどね」と。