亜鉛と精神症状

亜鉛欠乏の症状というと

・味覚障害
・皮膚炎
・口内炎
・風邪をひきやすい
・脱毛
・傷が治りにくい
・脱毛

をあげる方が多いかと思います。

しかしそれ以上に重要なのが、

精神への作用

です。

血液検査で亜鉛を確認すると、亜鉛不足の多さにびっくりします。
ほぼすべての人が十分亜鉛が足りているとは言えません。

特に、不安やうつ傾向、妄想、不穏症状などの精神症状がある方は、
特に亜鉛の値が低いことが多いです。

実は、亜鉛と銅のバランスが重要なのですが、
生体内で亜鉛と銅はシーソーのような関係になっていて、
亜鉛が増えると銅が減る、亜鉛が減ると銅が増える
というようになっています。

種々の精神症状がある方は、圧倒的に
亜鉛欠乏、銅過剰
の方が多いです。

理想は
亜鉛:銅が1:1程度になることです。
できれば亜鉛÷銅の値が、0.8以上が目標です。

これまでの患者さんのデータをすべて見直してみると、
亜鉛と銅の比率が改善してくるにしたがって、精神症状が改善していました。
亜鉛:銅の比率が1:1になっている方で、精神症状の悪い方はいないと言って良いくらいです

亜鉛÷銅の数値が0.4など、極端に低い方は、すべての方に精神症状が出ているわけではありませんが、
不穏症状やうつ傾向、認知症の急激な進行などがみられるケースが多いです。
強い精神症状が出ている方は、ほぼ確実に亜鉛と銅のバランスが崩れています。

 

一つ実例をあげます。

一人は90代の女性ですが、これまで虐待されてきた経験があり、
それのストレスで自分の髪の毛をほとんどすべて自分で抜いてしまっている状況でした。
診察を開始したときは既に虐待は受けていなかったのですが、
トラウマになってしまっているのか、毎回診察のたびに虐待の話をされていました。
興奮する症状もあったようです。
恐怖やおびえも強かったです。
その頃は亜鉛と銅の重要性について気付いていませんでしたから、
まずは精神症状や不眠の改善のために、少量の抗精神病薬と眠剤を開始しました。
そして、単純に髪の毛に良いと思って、亜鉛補給も始めました。
すると、抗精神病薬や眠剤はほとんど変更していなかったのですが、
時間とともに精神症状がとても落ち着いてきました。
診察のたびにあった虐待の話やおびえなどはほとんどみられなくなっています。
そして、髪の毛を自分で抜いてしまうこともなくなり、現在ではしっかりと髪の毛が生え女性らしい髪型になっています。
抗精神病薬も少しずつ減らし、現在では驚くほどの極微量しか飲んでいません。
多分中止しても問題なさそうなくらいです。
よくよく血液データを見返してみると、亜鉛の改善とともに精神症状が安定していました。

 

進行してしまった認知症に対しては、亜鉛補給をしても認知症状が劇的に改善するというわけではありません。
しかし抗精神病薬など使わずとも困った症状などは消失する可能性はありますし、
あるいはその時点でのその人本来の脳機能を引き出せるかもしれません。
記憶を司る海馬には亜鉛が豊富にあるといわれています。
認知機能が低下する以前に、あるいは早く介入して亜鉛補給をすることにより
進行を遅らせる可能性もありそうです。

それくらい認知症患者さんでも、亜鉛補給により落ち着いて過ごされている方が多いです。

 

年齢とともに亜鉛の値は低下してくるといわれています。
原因としては胃酸分泌の低下があるかもしれません。
胃酸がしっかりと出ていないとミネラルの吸収が低下してしまいます。

いまだに医療現場では、胃酸を強力に抑える薬が処方されまくっています。
今まで、PPI(プロトンポンプ阻害剤)という強力に胃酸を抑える薬が、骨粗鬆症を引き起こすとか認知症のリスクになるといった論文が出たことがあります。
「胃薬がなぜ?」と思われるかもしれませんが、ミネラルの吸収障害を引き起こすと考えればあながち間違っていないのかもしれません。

胃酸を抑える薬を本当に必要としている人は少ないです(本気の胃潰瘍とか、強い逆流性食道炎など)。
しかし多くの人が処方され、飲み続けています。
こんなに安易に胃薬が処方され続けられている現状は、逆に病人を多く作っていると考えています。
「この胃薬を飲んだら、ミネラルが吸収しづらくなりますから注意してくださいね」なんてしっかりと説明されて処方されたことのある人はいるのでしょうか?

自分も胃がムカムカしたときは飲むこともあります。年に2~3回くらいですが。
ちなみに胃がムカムカしたときは、重曹小さじ1杯をぬるま湯などに溶かして飲むと良いです。

また亜鉛の吸収を阻害するものとして、食品添加物や、フィチン酸(米ぬか)などがあります。玄米も食べ過ぎは良くないかもしれません。
何事もそうですが、極端すぎる食事は良くありません。
○○健康法が良いと聞くと、極端にそれに走ってしまう方がいます。
「バランス良く」が大切です。

 

認知症の周辺症状や、不安、うつ症状となると、すぐに抗精神病薬や抗不安薬、抗うつ薬などが処方されてしまいます。

しかしその前に亜鉛と銅のバランスを確認する価値は十分あります。
ひょっとしたら副作用の多い抗精神病薬を使わずとも治療できる可能性があります。

自分も認知症で周辺症状がある患者さんには、仕方なく抗精神病薬を使ってきました。
家族やスタッフに強い負担がかかってしまうため、困った症状はしっかりと落ち着かせなければならないからです。
しかし抗精神病薬は脳機能も少なからず低下させてしまいます
認知機能維持も目指したいのに、認知機能低下を引き起こす抗精神病薬を使わなければならない…というジレンマがありました。
なるべくなら抗精神病薬は使いたくありません。

亜鉛と銅のバランスが良い患者さんは、ほぼすべての方が抗精神病薬を飲まないですんでいます
飲んでいるとしても極微量で、通常の何十分の一とかのレベルです。

精神科や心療内科で亜鉛測定するようにしたらとても良いことだと思うのですが…。
認知症診療でも亜鉛測定が広まれば良いと思います。
これによって抗精神病薬や抗うつ薬、抗不安薬の使用が最低限まで減らせ、薬漬け医療が改善されると思います

もちろん、不安・不穏症状やうつ症状などは、鉄欠乏やビタミンB6の欠乏などでもおこることがあります。
決して亜鉛だけが原因ということではありません。
栄養全体を確認してくれる病院・クリニックに受診することをお勧めします。
また亜鉛は比較的安全域は高いのですが、過剰になりすぎないように、補給を開始したら定期的に血液検査で確認することが必要です。

亜鉛はメリットがとてもたくさんあるミネラルです。
風邪予防にもなるし、子供の成長にも必須です。
アトピー性皮膚炎の治療にもかかせません。
水銀などの重金属の解毒効果もあります。

一度自分の亜鉛濃度を測定する価値はあります。