精神科医からの残念な返書

施設に入居されている患者さんのお話です。

まだ診療して間もない方なのですが、スタッフさんによると以前から
「電波が…」とかいろんな幻聴の訴えがあるというのです。
「自分の考えが他人に盗まれる」という訴えもあったそうです。

「電波」というキーワードだけでも統合失調症を疑います。
「自分の考えが他人に盗まれる」も結構典型的です。

しかし内服しているのは、典型的ではない抗うつ薬が就寝時に出されていたのみでした。
就寝薬で出ていたので、眠る作用を期待して出されていたのか…。

この患者さん、しっかりはしているのですが、被害妄想的なところがありスタッフさんがうまく関われない状況が続いていました。

抗うつ薬が悪さをしていると考え、この抗うつ薬を少しずつ減量し、代わりに統合失調症にも適応があり、眠る効果もある薬に変更していきました(しかも少量です)。

切り換えが済んでしばらくしたのち、突然目が覚めないという自体が出現しました。
スタッフさんによると声をかけても目を開けない。
しかし自室のトイレには自分で行っているよう様子。
水分も時々飲んでいる様子。
しかしご飯は食べない。

心配になり臨時で診察に伺いました。
大きな声で呼びかけても確かに目が開きません。
体を揺すっても反応がありません。
血圧などのバイタルはまったく問題ありません。もちろん瞳孔・対光反射も問題なし。
確かに「意識障害」と言えそうなのですが、何か様子が変なのです。
なんと言ってよいかわからないのですが、何か違和感を感じるのです。

そこで自分は、患者さんの視界に入らなそうなところへ少し移動してみました。
すると横になっていた患者さんは、うっすら目を開け自分の方をちらっと見たらしいのです。
一緒に診察に同行していたスタッフさんや看護師がしっかりと確認しました。

これは統合失調症などにみられる「昏迷」という症状です。
正式には完全に行動ができないわけではないので、「亜昏迷」という症状でしょう。

昏迷とは、「行動」という出力はできないけど、聞いたり理解はできることです。
つまり意識がないように見えて、実際はちゃんと聞こえているし、周囲で話している人の会話はちゃんと聞いています。
だけど体がまったく動かないのが「昏迷」、今回のようにチラッと見たり、こっそりトイレには行けているのは「亜昏迷」になるかと思います。

ずっと昔、救急外来でこのような患者さんが運ばれてきたことが何回かありました。
そのときの感覚を自分は忘れていなくて、今回もそれを思い出していたのでしょう。

当時の話ですが、救急車で患者さんが運ばれてきて、統合失調症の既往があること、内服薬などは情報としてわかります。
しかし昏迷かどうかの診断はとても難しいです。
本当に本物の意識障害かもしれません。頭で出血しているとか、あるいは代謝性の病気で意識障害が起きているかもしれません。
一通り検査して何もなければ、次は薬の過量内服を疑います。
自殺企図で、あるいは混乱して薬をたくさん内服し意識障害になった可能性を疑います。
そこで医療スタッフで話し合い、胃管、つまり鼻からチューブを入れて胃洗浄を試みようという話になりました。
鼻から太いチューブを入れられるのはとてもつらいものです。
で、実際に処置を始めようと鼻からチューブを入れ始めた途端、つらい顔をしながら目が覚めたこともありました。

今回のケースでは過量内服の心配はないですし、瞳孔も問題ないので頭の中で重大な疾患が隠れている可能性も低そうです。
しかし食事が全然とれていないですし、水分も十分はとれていない様子です。
少し脱水気味な様子もありました。
施設での点滴でしのぐ方法もあるのですが、「以前よりスタッフがうまく関われない」というのも気になり、ここは環境を変えてみた方がいいかもしれないと思い、脱水に対する加療目的で一般病院に入院させることとしました。

すると不思議なことに、入院当日には少し自分で食事を食べ、翌日には目がしっかり覚めていて自分で全量摂取だったとのことです。
もちろん検査しても何も問題なく、数日で退院となりました。

何もなくて良かったと思って安心していたのもつかの間、施設に戻るとまた「昏迷」となりました…。
また目が覚めない、ずっと寝ているというのです。
また食事もとらないとのことです。

またまた心配になり、診察に伺いました。
自分たちが行く直前、家族の方が面会に来ていたそうですが、そのときは起きて何か少し食べていたというのです。
診察にうかがうと、前回よりは目が開いていました。
受け答えにもなんとなく返答があります。
完全な昏迷ではなさそうです。

正直効くかどうか賭けのようなところもあったのですが、「シチコリン」を点滴で注射してみました。
シチコリンは副作用もなく、脳の覚醒を促すものです。
すると点滴をしている最中から目がしっかりと開くようになり、笑顔で話すまでになりました。

ひょっとしたらこのまま施設でみれるかもしれないと思いながらも、またすぐに昏迷状態になる可能性もあります。
施設さんでも不安が強くなっている状態であり、確かにここは一度精神科専門医に診てもらった方が安心です。

そこで札幌市でも評判が良いといわれてい、とある病院へ相談の電話をし、早速翌日には外来の予約を取ることができました。
で、丸一日食べないこともあるとのことでそのまま入院となりました。

ここでようやく本題の「精神科医からの残念な返書」です。
かなり前置きが長かったですね~。

診察していただいた精神科の先生からすぐに返書が届きました。
文章もとても丁寧で、しっかり説明や診断もされていました。
しかし…最後の一文に腰が砕けました。

その文章をそのまま載せます。
「先生ご処方のノベルジンは何のために出ているのか全くわかりませんが、とりあえず止めさせていただきました。」

説明します。
自分は初診時の採血で、低亜鉛血症を認め、ノベルジンという亜鉛補給のお薬を始めました。
亜鉛不足で精神症状が出るケースが多いからです。
もちろん初診時の採血の結果も、先方の先生には渡しています。
血液データをみていないのかなんなのか。
ノベルジンという薬がわからないのか…。

いやいやそれ以上にショックな理由があります。
2003年の論文になりますが、統合失調症の患者さんで「亜鉛と銅の比」を調べたものがあるのです。
そこでの報告は、
「脳の中で亜鉛が減り銅が増えると、パラノイア、暴力、気分の激変、幻覚、幻聴が出現する」
と言っているのです。
(パラノイア= 不安や恐怖の影響を強く受けており、他人が常に自分を批判しているという妄想を抱くものを指す。by Wikipedia)

実際の数値で示すと、暴力的な統合失調症男性の銅/亜鉛比は1.53、一般の統合失調症男性の銅/亜鉛比は1.15だったそうです。
つまり、銅/亜鉛比が高い方が、「パラノイア、暴力、気分の激変、幻覚、幻聴」が出やすいのです。

ちなみにこの患者さんの銅/亜鉛比は1.80とかなり高値でした。

精神症状というものは思った以上に栄養が重要です。
栄養が大きく関わってきます。

例えば鉄不足が起きただけでも、イライラがでたり、頭痛、不眠、耳鳴り、物忘れなど多彩な症状が出ます。
(実際に鉄補充だけで物忘れが改善した例もあるくらいです。)
ちなみに鉄不足は、貧血の具合をみるとか、血清鉄の値を調べるだけでは不十分です。
「フェリチン」という値が重要になってきます。

精神科医こそ栄養の重要さを知っているべきなのです。
埼玉県の精神科医である奥平智之先生なんかは、その点を熟知されていて精神科医の鏡とさえ思います。
いくつか本を出していたり、ブログもあるのでぜひ参考にしてください。

けれどほとんどの精神科医は栄養なんて全く知りません。
まず薬(精神薬)です。
ひょっとしたら栄養面を改善するだけで精神症状がかなり落ち着く可能性だってあるのです。
そうしたら内服する精神薬だって減らせます。精神薬を飲まなくてもいいかもしれません。

そういうことをしないからどんどん薬漬けになるのです。
しかも一生精神薬から抜け出せなくなるのです。

精神薬は頭(脳)を確実に変性させます。
だって脳に強力に作用する薬なのですから、神経伝達物質の数が増えたり減ったり、受容体が増えたり減ったりしてしまいます。
長期間飲んでいれば、その増えた減ったが固定化されていき、後戻りできなくなります。
つまり薬がないとやっていけない体になってしまいます。
だから精神薬は慎重になった方が良いですし、使うにしても最小限を目指すべきなのです。
子どもで安易にADHDと診断され、覚醒剤成分と同じような強力な薬を飲まされている子どもたちの将来が本当に不安です。
若いほど精神薬によって脳に大きくダメージを受けますから。

精神薬を処方する前にまず栄養チェックです。
亜鉛、銅、ビタミンB、鉄(フェリチン)などなど。
精神薬だけでコントロール使用とするのは本当によくありません。
足りない栄養素、バランスの悪い栄養素があればそこを改善し、体作りをしながらやっていくべきなのです。

ちなみに今回受診していただいた病院、評判が良いと思っていたので自信を持って紹介させていただいたのですが心底がっかりしてしまいました。
札幌で紹介できる精神科は本当に数少ないのですが、そのうちの一つでした。
それなのに…。
そういえば最近院長先生が代わってしまったのですよね…。
前院長先生はとても人格者と言えるくらい良い先生でした。
トップが代わるとその下にも影響が出てしまうのかしらん。

せめて何で亜鉛が処方されているのか、先方の先生には考えて欲しかったですね。
いちいちこちらから論文を添えるなどして根拠を説明しなきゃいけないのでしょうか。

返書の返書を送ってやろうかとも考えましたが、大人げないのでやめました。
いつかその先生が亜鉛の重要性に気づいたら、そのとき恥ずかしい思いをするでしょうし…。
でも気づかないだろうなぁ。

本当に医療においては「無知は罪」です。
自分も知らないことはまだまだいっぱいあります。
だから勉強は怠りません。
もっともっと知らなきゃいけないこと、知りたいことがたくさんあります。

でも医者って、実は勉強しなくてもやっていけるんですよ。
「ガイドライン」という魔法の教科書通りにやっていればいいのですから。
たとえそれで患者さんに不利益が被ろうとも、訴えられても医者は負けません。
患者さんが亡くなってしまったとしても、医者は守られます。

だけど患者さんのことを本気で考えている医者は気づいていると思うのですが、
ガイドラインがすべてではないのです。
ガイドライン通りにやっていれば患者さんが健康的に天寿を全うできるというわけでは決してありません。
そもそもガイドラインを作っている先生のところには、製薬会社から金が流れているケースがほとんどですから。
極端な言い方かもしれませんが、「ガイドラインは患者のためというよりは製薬会社のため、医者を守るためにある」と言える部分があります。

ちなみに先方の先生、治療には「リスパダール」を処方されたそうです。
高齢者にリスパダールを使い続けると、足を止めます
つまり動けなくなります。
転倒リスクは確実に高まります。
リスパダールは即効性もあって良い部分もあります。
患者さんをおとなしくさせたいときはこんなに楽な薬はないっていうくらいです。
だけど確実に高齢患者さんを動けなくさせます。
自分は最後の最後、他にどうしようもなくなったときくらいにしか使いません。
しかもなるべく頓服の使い方で。
今現在患者さんに処方している人はいませんね。
リスパダールは安易に処方する薬ではない、これを安易に処方する医者は初心者だとさえ思っています。
あっ、でもその先生を初心者だと言っているわけではないですよ。そう聞こえてしまうかもしれませんが…。でも、まずなんでこの薬なのか全く理解できません。これなら一般病院に入院していた方がまだましです。

というか「全くわかりません」って書かなくてもいいのに…
ちょっと傷つきました…。

こんな文章の書き方あるのか!って思いましたけど、精神科医ってそういうところありますよね…。
だから精神科医にはなりたくないのです。