お客様の中にお医者様は…

しばらくコロナネタ、ワクチンネタが続いてしまったので少し箸休め。

時間のある人だけ読んでください。

タイトルから察しがつくように、飛行機に乗っていてドクターコールに遭遇したときの話です。

数年前になりますが、札幌から羽田へ向かう機内で、
「お客様の中に、お医者様または医療関係の方がいらっしゃいましたら速やかにお近くの客室乗務員までお知らせください」
なんてアナウンスが流れたんですね。

「えっ」というか「げっ」というか、正直後者の方の気持ちでした。

当時はコロナ前ですし、お客さんもたくさん乗っていました。
「誰か医者の一人や二人は乗ってるだろう」と思って、ちょっと様子見・・・

学校で先生に当てられないように、下をみてうつむいている感じです。

だって、救命病棟24時の江口だとか(ちょっと古すぎか)、コードブルーの山Pのような救命バリバリの救命医が乗ってたら、絶対にその方がよいですし。

だけどしばらくしてまたドクターコールが流れるんですね。
しかもそのアナウンスがほんとに困っているような感じを受けたんです。

ここでも正直な気持ちは「ありゃま」です。

意を決して申し出ました。

実は申し出るまでには高速でいろんなシミュレーションを頭の中で行っておりました。
どんなことが予想されるか、こんなんだったらどうしようとか、あの病態だったらどうするかとか、緊急着陸を選択しなければならなかったどうしようとか。

で、その日はちょっと奮発して+1000円でクラスJに乗っていたんですけど、患者さんは後方のお座席でした。お座席。
そこまで行くのにCAさんの後ろをついてずっと歩いて行ったのですが、他の乗客がみんなこっちを見るんですね。
別に犯罪者とかではないのですが、さらし者にされているようで、なんかすごくいや~な気分でした。

もちろん患者さんのところへつく前にCAさんからはどんな状態なのかを聞いています。
どうも血圧が下がっているとのこと。

で、患者さんのところへつくと、すでに乗客の中にいた看護師さんがいて、血圧を測ってくれているところでした。
さすが看護師さん☆
一方で勇気のないダメな医者(T_T)

顔色はあまり良くないものの、血圧はかろうじて上がってきているようで100少しはあったように記憶しています。
意識レベルも問題なし。
念のため聴診をしました。

機内にちゃんと救急セットがあるんですね。

しか~し、飛行機にある聴診器は、ファミレスレジ横のおもちゃコーナーにある、「お医者さんごっこ」に入っているような頼りない聴診器なのです。
胸に当てて聞いても、飛行機のエンジン音でな~んも聞こえません
なんで今まで誰も指摘してこなかったんだろうっていうくらい役に立ちません。
がんばって聞いても、「ゴー(エンジン音)」
何度聞いても、「ゴー」

その方、癌で闘病中だったらしく、体力があまり万全ではなかったようなのですね。
次第にご本人もしっかりされてきて、「大丈夫」とのことでした。

結局「仕事やった感」というか「人助けしたぞ感」がまったくなく、ただおもちゃの聴診器でお医者さんごっこをしただけのような感じでした…。
(たぶん低血糖の可能性はないかとか、いろんなことを想定して質問とかはしたと思うんですけどね。記憶にございません。)

で、自分の座席に戻ったら、カルテのような書類を書かされました。
結局なんも処置はしてなかったんですけど、所見など書いて渡しました。
ちょこっとそれらしく、医療略語をまぜて書いちゃったりしてね。

だって、ほんと医者っぽいことなんもしてないし、これじゃニセ医者と思われてもおかしくないですし…。
せめてものプチ証明みたいな気分で。
一応、お財布に入っていた名刺も添付しときました。「ニセ者じゃありませんっ。ホントの医者です!」って気持ちで。

そうなんです。
医者って、医者を証明するものって持っていないんですよね。
医師免許証って、賞状みたいなばかでかいものですから、あんなものをいつも持ち歩くわけがありません。
カードサイズの免許証とか資格証があればいいのに、そういうものないんです。
(日本医師会独自で医師資格証なるものを作っているようですが、一般的なものではなく、それに登録して持っている人はごくわずかです)

だから、こういうときニセ医者が名乗り出てもわからないんですね。
結構怖いことです。

今では、「JAL DOCTOR登録制度」とか「ANA Doctor on board」といって、事前に医者であることを航空会社に登録するシステムがあるようです。
急病人が出ても、搭乗者リストから登録している医師に直接協力を依頼することができ、迅速に対応することができるということです。
ニセ医者防止にもなるでしょう。
ただどれだけの医者が登録しているんだかわかりませんが、やる気満々あるいは物好き、あるいはよこしまな気持ちを持っている医者が登録しているんでしょう。

「よこしまな気持ち」とは、変な話、CAさんへのアピールです。

飛行機乗っていると結構いるんですよね。
いかにも医者ですってことをアピールしているような人が。
英語の医学論文をでかでかと広げていたり。
しかも「医学」論文であることを一目でわかるように、CT画像が出ているページを広げていたり。
しかもさっきから全然ページがすすんでない(笑)。

いかにも「ザ・医学書」を広げて読んでいる人にも出くわしました。
頭に入るのかなぁ…。
移動中も勉強とはとても熱心ですね。
機内は酸素濃度が少し落ちますから、勉強効率は悪いんですけどね。

友達に聞いた話では、乗客にケーシーといわれるタイプの白衣を着ていた人がいたとのことでした。
そこまでするかいっ。
そこまでいったらもはや変態ですね。

そんな涙ぐましい努力をしたって、CAさんに言い寄られるなんて絶対にないのに…。
もしそのアピール作戦が成功したとしても、お金と地位、名誉だけが目的でしょうから、その先が思いやられるでしょうけど。
お互いステータスを求めてる同志で、そういう関係もアリなんでしょうかね。

以前、爆笑レッドカーペットで、フットボールアワーが「飛行機内の医者」というコントをやっていたのを思い出しました。
気の弱い医者がわざと少し大きな声で「クランケ」とか言って、CAさんにアピールしたりするコントです。

あっ自分は残念ながら?航空会社には登録してません。
現役バリバリの救命医とか登録してやる気のある先生がいたらその先生が診察した方がよいと思いますし。
それでも他にいなかったらまた名乗り出るとは思いますが…。

しかし話は戻りますが、あの聴診器は本当に使えない。
やる気のある先生は、My聴診器を持ち歩いた方が良さそうです。

よく救急ドラマとかで必ず出てくる「緊張性気胸」
あの飛行機内の環境では診断に確証を得るのは難しく、ボールペンの筒を刺したり、ストローを刺したり、ふつうそんなことできません。

ところでそういえば、自分も昔フライトドクターを少しばかりやらせてもらっていました。
それなのになんで自信持って堂々と出ていかないのかと思われるかもしれませんが、やはりできる看護師がそばにいなかったり、ちゃんとした医療機器しっかりしたバックアップ体制がないと、なかなか自信が持てないものです。
医者は一人では結構無力です(自分だけかもですが…)。
少しばかりのお力になれるくらいじゃないでしょうか。
ブラックジャックのようにはいきませんね。
(でもブラックジャックにもピノコという助手がいましたね。足を引っぱることがほとんどですが。それにメスさえ持ち歩いていますね。確か空気で膨らむ携帯型手術室まで持ってました。てか、メス持ってたら飛行機乗れないじゃん。)

さいごに。

「救急ドラマあるある」で締めくくりたいと思います。

その1.崩落事故、爆発事故などのケースがたいてい出てくる。
その2.世間の重大ニュースになるような事故・災害が不自然なほどその救命センターに立て続けに起こる。
その3.患者をたくさん受け入れているのに、さらに救急要請がはいる。そして葛藤しながらもそれも受け入れる。絶対に断らない。
その4.救命率が異常に高い。
その5.緊張性気胸の症例が出てくる。
その6.センチメンタルなシーンがある。
その7.頼りない研修医がいる。でも挫折しない。
その8.できる看護師がすばらしいサポートをする。
その9.できるドクターには秘密の過去がある。
その10.できるドクターはかっこよく悩む。