コウノメソッドの醍醐味

約1ヶ月前、男性の新患依頼(訪問診療)がありました。

前情報によると、
・認知症により拒否が強い。
・診察もさせてくれない。血圧測定も無理かもしれない。
・胸から下を触られるのを嫌がる。
・失禁しても着替えさせてくれない。
・突然怒り出す。
・突然どこかに外出してしまうので、診察に来てもらってもいないかもしれない。
・前医では、診察に来てもらった時、トイレに逃げ込み鍵をかけて閉じこもってし まった。
・採血は言語道断。前医では採血の時にスタッフを蹴り飛ばしたり大騒ぎだった。
・薬も飲まない。

このような事前情報を聞くと、さすがにすごいなぁと思います。
ご家族の介護の大変さが目に浮かびます。
このようなかなり強烈な症状だとさすがに尻込みしてしまいそうですが、
逆にかえってやる気がわいてきます。

そして初診の日。
まずは患者さんの気持ちを高ぶらせないよう、笑顔で接します。
診察についてはいきなり診察するのではなく、まずは会話から入ります。
しかしかなり認知症が強いのか、話していることがてんでバラバラで、話がまったくかみ合いません。
(これだけ認知機能が落ちていても、外出して帰ってこれるんだと感心しましたが…)
患者さんはまったく関係のないことを話しているのですが(昔の話?)、がんばって聞き取り、その話に合わせてみます。
多分昔の仕事の話だと思うのですが、きっとこれまでやってきたことにプライドがあるのでしょう。
男心をくすぐるような、悪い言い方かもしれませんが少しおだてるような、持ち上げるような感じで、話してみます。
ただ、上っ面な感じの対応だと見抜かれます。
今回、その患者さんが送られてきた人生は本当にすごいことだと思い(ご家族から詳しく聴取)、心から感心していました。

ちなみにこの「おだてる(ほめる)作戦」、なかなか心を開いてくれない場合かなり有効です。
女性の認知機能低下が強い患者さんでしたが、かなり警戒心が強い方でした。
自宅の居間やキッチンが白で統一されていてスッキリしていた感じだったので、何気なく褒めたところ、
途端に急に笑顔になって上機嫌になってくれました。
びっくりするくらいの急激な変化でした。

誰にでもすごいところや褒めたくなるような所はあります。
その患者さんに興味を持てば、必ず見つかります。

で、今回のケースの続きですが、
少し打ち解けたところで診察させてもらいました。
血圧測定もでき、奇跡的に(?)診察はスムーズに進みました。
しかし採血は行いませんでした。
本来なら、認知機能低下をきたす栄養の状態や甲状腺の状態など調べるのですが、少し慣れてからおこなうことにしました。
認知機能低下が強ければ、覚えていてくれない、なかなか慣れてくれないのではと思うかもしれませんが、
繰り返し会っていけば必ずわかってもらえます。

ルーチンの検査よりもまずは困っている症状を落ち着かせることです。
初診時、奥様の疲弊した表情が印象的でした。

現在の症状はピックっぽい症状が多い印象でした。

そこで、コウノメソッドにあるとおり、
ウインタミンを朝0.04g、夕0.06gという極微量で処方しました。
吹けば飛ぶような量です。
内服拒否があるので、最初はご飯等に混ぜて内服してもらうようにしました。

そして約1ヶ月後…。
診察に関してはまったく拒否もなく、採血に挑戦してみようという話になりました。
そうすると…。
とても協力的で、しっかりと腕を伸ばしまったく拒否をすることなく行うことができました。
その様子をみていた奥様は、とても驚かれていました。そして表情もとても明るくなっていました。
患者さんの会話は相変わらず辻褄が合いませんが、診察が終わって帰るときも丁寧に玄関まで見送ってくれました。

ウインタミン内服中に、ショートステイも数日利用されてみたようですが、精神的にもとても落ち着いて過ごされ問題なく利用できたようです。
今後もショートステイを積極的に利用することにより、ご家族の負担はさらに減らせることができるでしょう。

ただ一つ問題なのが、少し眠気が出てしまうようだとのことでした。
診察時はしっかりと起きておられましたが…。
こんな極微量のウインタミンでも少し効き過ぎてしまっているのかもしれません。

実は認知症が進行するに伴って、レビーっぽい症状が出てきたり、ピックっぽい症状が出てきたりすることがあります。
これらが混ざり合うこともあります。
この患者さんもひょっとしたら、薬剤過敏性の性質があるのかもしれません。
あるいは、
「認知機能低下が強い=血液脳関門が破壊されている」
ために、薬の影響が強く出てしまうということもあるでしょう。
今後は様子をみて、ウインタミンを微調整していく予定です。

今回の患者さんに認知症薬を処方するのはもってのほかです。
火に油を注ぐようなものです。
しかし、「認知症だからまずは認知症薬」という感じで処方され、
それで陽性症状が強くなれば、
「認知症が進んだのですね」
と説明され、抗精神病薬をどんどん盛られる…
こんなケースがいまだにあります。

精神病薬を大量に盛れば、おとなしくさせることはできるかもしれません。
こんなことは誰でもできます。簡単です。
しかしその人の人格を無視した行為です
たとえ認知症であろうと、なるべくその人本来の人格を残せるように
内服薬を調整しています。
「抗精神病薬は必要最小限に」を心がけています。

医療関係者がこのこのブログを読んでいることはほとんどないと思いますが、
陽性症状が強い、ピックっぽい患者さんにはぜひこのウインタミンの少量投与を試してみる価値はあります。

もちろんこの処方量ですべてうまくいくというわけではありません。
もっと量が必要なときもありますし、この薬で効果がでないこともあります。
であれば、違う薬を試すまでです。
コウノメソッドにはそれらの手順もしっかりと明示されています。

今回の患者さんについては、今後は脳の栄養になるDHA・EPAやビタミンB群などを補給して
少しでも脳機能を維持できるように目指していく予定です。