自宅か施設か

ご両親が高齢になり、認知機能低下が進んだ、介護量が増えたとなると、
施設に入れた方がいいか迷うときがくると思います。

しかし世の中の風潮で、なぜか
「ずっと住み慣れた自宅で過ごした方がいい」
「施設に入れるのは親を捨てること」
と、思い込まれている節があります。

しかし本当にそうなのでしょうか?

確かに、できるなら住み慣れた自宅で過ごすことが本人にとっては良いことでしょう。
ヘルパーさんやデイサービスなどの種々の介護サービスを利用して、自宅で過ごす方法もあります。

しかし介護するのは中年世代に当たる人が多く、その方たちはもちろん仕事があります。
24時間つきっきりで介護ができるわけではありません。
介護度によっても毎日デイサービスにいけるわけではなく、日中、両親を一人だけにしなければならない時間帯も出てきます。

あるいは一人暮らしの方もいます。
ご家族は近所に住んでいたり、遠方に住んでいたり、いろいろなケースがありますが、この場合も一人の時間がほとんどです。

 

最近経験したケースでは、80代の女性ですが、若いころからとても働き者の方だったようです。
娘さん夫婦と同居しており、デイサービスももちろん利用していましたが、一人になってしまう時間もあります。
この方は、内服薬を変更することにより動きもとても良くなり、問いかけに対する反応も素早いくらいになりました。
しかし、一人でいると手持ち無沙汰になってしまうようで、おかしな行動が出てきてしまいます。
何かせずにはいられない様子で、そわそわしてしまいます。
その方は施設に入居することになったのですが、そこでは洗濯物をたたんだり、
他の入居者の食事を手伝ったりと、いろいろと役割を与えられ生き生きと過ごしているようです。
ADLが良くなったし、このまま自宅で過ごせることができるかなと思いましたが、
この方にとっては施設の方が合っていたんだなと思いました。

もう一人のケースは70代の女性ですが、一人暮らしをされていました。
近所にご家族が住んでおり、ご家族もとても献身的にサポートされていました。
しかしやはり一人の時間が多く、うつっぽくなってしまうことも多かったです。
うつ症状に対する治療もおこなってみましたが、どれもパッとせず、物忘れも進行し、そのうち施設に入居されました。
施設に入居後の初めての外来診察の時、表情はとても明るくなり生き生きとしていました。
その方もADLは良好で、洗い物や洗濯物をたたんだり、いろいろとお手伝いをしているようです。
あたかもスタッフの一員のように。
長谷川式簡易知能評価スケールという、認知機能を評価する質問があるのですが、
驚いたことにこのテストの点数も回復していました。
この方は認知症の薬も必要はなく、今は脳機能をサポートする栄養だけで治療を継続しています。

 

認知症予防には「コミュニケーション」が大切だと言われています。
施設でいろいろな人と常にふれあうという環境が良いのかもしれません。
良い刺激になるのだと思います。

しかしみんながみんな、人とふれあうことが好きなわけではありません。
一人が好きという方もいますし、そのような方を強引に施設に入居させてしまうと
逆にストレスになってしまいます。
また施設の雰囲気にもよると思いますが、特に社会的地位が高かった方などは
施設になじめないケースが多いように思います。

自宅でずっと過ごすことが良いのかもしれません。
しかし「自宅でみていく」というのが、あまりにも美しく語られすぎているように思います
家族には家族の事情もあり、生活もあります。
たとえ種々のサービスを利用したとしても、家族には大きな負担がかかります。
親を施設に入れることに強い罪悪感を感じてしまうご家族がいます。
負担を負担と思わないならば良いのですが、家族の方が倒れてしまったら、どうにもなりません。
世間の目を気にしすぎてはいけません。

あるいは親孝行したいから…との強い気持ちで、自宅で頑張っている方もいるでしょう。
しかし上記の例のように、施設の方が合っているケースもあります。
家族の「親孝行したい」という気持ち(一方では素晴らしい気持ち、一方では独りよがりな気持ち)で自宅に引き留めておくより、施設に入ってもらった方が良いこともあるのです。

自分もこれまで自宅の方がいいと思い込んでいました。
しかし上記の経験をして、施設が良いケースもあるんだなと気づかされました。

決して施設に入れることが悪ということではありません。
(ただし施設選びは慎重に…)

ただ当クリニックでは、基本は、なるべく自宅で家族と一緒に「穏やかに」過ごせることができるように治療を考えています。