83才からの中国語

今回の内容は、まさに表題の通りです。

訪問診療をおこなっている患者様ですが、ご主人が長期入院中で、一人暮らしということもあり精神的にとても参ってしまっていました。
診察に伺うと涙を流すことも多く、徐々にうつ傾向に…。

日中でもカーテンを閉めっぱなしで電気もつけず真っ暗。
ときには部屋が片付いていなくて散らかっていたり。

そんな状態が1年以上続き、周囲からは、認知機能低下の心配の声も上がってきました。

月1回の訪問診療でしたが、ご飯が食べれていなくて急激に痩せてきていないかなど確認してきました。

しかしなかなか状況が改善せず、「いよいよ何か薬でサポートするしかないか…」と悩みました。
認知機能低下がみられてきたら、早めに何か対処しなければなりません。

ただなるべく安易に精神に作用する薬は使いたくない、としばらく様子を見ていました。
月1回だけですが、話をよく聞き会話でサポートできるところまでやってみよう、との方針で耐えてきました。

で、先日。
診察に伺うと、いつもよりなんだか明るい感じがします。
部屋もカーテンが開けられており、畳を入れ替えたと。障子も今度張り替えるとのこと。
外には洗濯物が干されています(それまでは外に干しているのをみた記憶がありません)。
お部屋も片付いています。
何か違うなぁと思って、ふとテーブルの上を見ると中国語会話の本があります。

「これは…?」と尋ねると、デイサービスに日本語が全くわからない中国人の方が来るようになったそうです。
周りの人と全くコミュニケーションがとれないことを不憫に思い、挨拶だけでも中国語で挨拶してあげようと勉強を始めたそうです。
娘さんたちが、中国語の本を買ってきてくれたそうです。

挨拶の言葉を何種類も紙にマジックで書いていました。
それがまた字がウマいのです。
中国語には、日本にはない漢字が使われていたりして難しいのですが。

とても生き生きと、笑顔いっぱいに中国語を始めたいきさつを教えてくれました。

正直、この変わりようにびっくりしました。
こちらもとてもうれしくなってしまいました。
「何がきっかけでこんなに変わるのか本当にわからないものだなぁ」としみじみ感じました。

しかし83才から新しいことを始める、しかも外国語を始めるなんて、本当にすごいと思います。
しかもしかも、普通の状態からではなく、うつ傾向だったのです。
マイナスのところから一気にハードルの高い外国語を学ぶという、ただただびっくりするのみです。

娘さんたち家族も、一緒に同居はしていませんがすごく熱心にサポートしていました。
こまめに顔を出したり、サプリなどいろいろ考えて用意したり。
家族の力も大きかったことと思います。

自分は、精神面に関しては医療としては結局抗うつ薬を処方することもなく、何もしていません。
ただただ毎月「薬を始めようか、いやまだ始めたくないなぁ」と悩んでいただけでした。
精神面のサポートとして傾聴と会話を繰り返してきただけです。
かっこよくいえば、「余計な薬物治療をせず、何もしないことが治療だった」とも言えます。

抗うつ薬はこれまでブログに何度も書いてきているように、飲まないに越したことはありません。
抗うつ薬が原因とされる種々の事件がたくさん起きています。
あるいは自殺率が上がるというデータもあります。

しかし今の日本は心療内科が乱立し、簡単に受診できるようになった、受診しやすくなっています。敷居が非常に低くなりましたから。
「うつ病は心の風邪」とキャンペーンしていたのも悪かったですね。
本物のうつ病は、そんなに軽いものではありません。
あのキャンペーンは、抗うつ薬を日本で売るための戦略だったことがわかっています。

製薬会社のそんな戦略にまんまとはまり、日本では安易に抗うつ薬が処方されるようになりました。
人生なんて、たくさんつらいことがあります。
ハッピーなことばかりの人生なんてないんじゃないでしょうか?
つらいことがあったから、ちょっと気持ちが落ちたからということで、うつ病薬が始まってしまったりします。

必要ない人が抗うつ薬を飲むと本当に大変なことになります。
必要ない人が飲むと、めまいやふらつきなど副作用を感じます。
そこでおかしいと思ってやめちゃえばいいのですが、真面目な人ほど飲み続けてしまいます。
飲み続けると、副作用で頭が変な感じになります。
イライラしたり。
そうするとまた薬が増量されます。
その繰り返しでどんどん泥沼にはまります。

長期間精神に作用する薬を飲んでいると、脳内の神経伝達物質の受容体の数にも影響を及ぼしてしまいます。
いわば、脳が変性してしまいます。

こうなると、減薬・断薬はかなりの覚悟が必要になってきます。
本人の覚悟も家族の覚悟も必要です。
栄養面でもサポートしながら、長い目で闘っていかなければなりません。

これはパーキンソン薬でも言えることですし、認知症薬でも言えることです。
パーキンソン病で薬を信じられないくらい大量に飲んでいる人いますよね…。
安易に薬を増量することによって脳(受容体などを含め)が変性し、薬がだんだん効かなくなる。
そしてさらに薬が増量される。
その繰り返しで、薬が増えていきます。

医療機関の処方というのは国にチェックされています。
国にとって変な処方(医療機関としては必要と考えて処方しているのですが…)だと査定されてしまい、その分の薬代はその病院の自腹ということになってしまいます。
たとえば、胃薬一種類だけでも査定されることがあります。

一方、パーキンソン薬はどんなにたくさん出そうがまず査定されないんですねぇ。
何種類のパーキンソン薬を処方しても、めったに査定されることはない。
あり得ないだろうという用量や、組み合わせでもめったに査定されない。
なぜここは見逃すのか不思議です。
これだから薬漬け医療はなくならないのだろうし、変な治療も横行するのです。
パーキンソン病治療に関しては、医療費の無駄遣いが相当あると思います。

認知症薬に関しては、アリセプトやレミニールを長期間飲んでいて、
それを急にやめたりすると一気に認知機能低下が進行してしまう印象があります。
一方リバスタッチパッチではそれほど感じませんが…。

認知症薬は元々効果は限定的です。
微妙なさじ加減で使用していれば良いのですが、教科書通りに何の考えもなく飲まされていると効果もぱっとしないのに無駄に薬を飲み続ける羽目になります。
効果がはっきりしないからいざ中止したいと思っても、長期間薬を飲んでいる影響で脳が変性してしまっています。やめれば認知機能低下が一気に進行してしまうのでやめられません。
せめて減量くらいでしょう。
少量での継続だった場合はやめられるケースもあります。

脳の変性や、神経伝達物質、受容体に与える影響を考えて治療する分には良いのですが、何も考えず教科書通りにどんどん増量していくとか、そんな治療だったら医者なんていりませんね。

抗うつ薬を始め、頭に作用する薬は安易に飲むべきではありません。
本当に取り返しがつかないことになってしまいます。
まったく取り返しがつかないわけではありませんが、相当な覚悟が必要です。
つらい出来事を自分で乗り越える方がよっぽど楽かもしれません。
安易に薬に頼ってしまったら、気づいたときにはなかなか薬から抜けられない体になってしまっている可能性が高いです。

本物のうつ病とそうでないものを見極めない医者も悪いです。
見極めないのか、見極めようとしないのか、見極められないのかわかりませんが。

つらいことがあって、気持ちが落ち込んだとき医者にかかっても良いです。
しかし言われることを鵜呑みにしないことです。
そうは言っても、気持ちが落ちているときは判断能力も落ちてしまっているから
難しいんですけどね…。
前提として「医者を疑う」あるいは「病院に安易に近づかない」しか方法がないかもしれません。