なんでもかんでも薬って…

外来に通院しているアルツハイマー型認知症患者さん(女性)の担当ケアマネさんから先日お電話をいただきました。

「デイサービスでスタッフに暴力を振るった。精神科を受診させたい。」と。

これまでも被害妄想(悪口を言われている)とか、夜間落ち着かないで家を飛び出してしまうなどがありました。
歩行状態など身体機能はまったく問題なく、ご主人と話し合い、ADL(生活の質)はなるべく落としたくないからできるだけ少ない抗精神病薬や漢方薬で経過をみることとしました。
そうしたところ、1日20~30回も行っていたトイレも落ち着き、徘徊も減りました。
ADLを犠牲にすることもなく。
なるべく薬は使いたくなかったのですが、そのときは家を飛び出してしまう徘徊が危険と判断し、催眠性のある抗精神病薬を夜にだけ始めました。
しかしよくよく話を聞くと、デイサービスで苦手な人がいて、たぶんそれが原因で不穏になっていたのではないかとのことでした。

そうなんです。

認知症の患者さんだからといって、意味もなく不穏になっている訳ではないのです。

何か原因があって不穏になってしまうことが多々あります。
特に多いのが、慣れたデイサービスや施設スタッフさんが変わった時などに多いかもしれません。

確かに暴力によって他人に危害を加えるのはよくありません。
一時的にもで抗精神病薬は必要でしょう。

ただ、「不穏だから精神科」
という短絡的な考え方はどうなのでしょう。

なぜ不穏になっているのか、なぜ急に暴力的になったのか考えたことはあるのでしょうか?

「認知症という病気だけがそうさせている」と人のせいばかりにして、自分たちの行動を振り返ったことはあるのでしょうか?

いまだにケアマネさんや介護スタッフのなかには、認知症だからといって「何もわかっていない。何も理解していない。」と思われている方がいます。
言葉は悪いですが「馬鹿にしている」

認知症患者さんだって感情を感じます。
うまく表現できないだけで、こちらの言葉や会話を理解している部分が必ずあります。

認知症だからといって特別なわけではありません。
一人の人間として接しているのか疑問に感じるときがあります。

もちろん今は介護スタッフさんの中には、薬だけに頼るのではなく、介護の仕方を工夫して行おうとしている方もたくさん増えています。
ちゃんと愛を持って接している人の方が多いと思います。
何でもかんでも精神科、何でもかんでも薬でコントロールという人の方が少ないかもしれません。

特に4~5月はコロナの影響により日常が変わり、それが原因で不穏症状がでている人もいます。

ちなみに今回そのケアマネさんから「精神科を受診させたい」と言われ、「デイサービスなどでスタッフが変わったとかありませんか?」と尋ねましたが、把握していなかったのか明確な答えは返ってきませんでした。

こちらとしてコウノメソッドを行っていますし、不穏症状を取り除き家族の負担を取り除くのを目標にしています。
この患者さんの場合、いまだに少量の抗精神病薬ですし、薬でコントロールするにしてもまだまだ調整のしようはあります。
そのことをケアマネさんに伝えましたが、翌日、○○クリニックへ紹介状を書いてくれと「ケアマネさんから」依頼がありました。
ご主人になんと伝えたのかわかりませんが。

なんかおかしいですよね。
家族の意向ではなく、ケアマネさんが決めることなのでしょうか?
患者さんや家族不在です。

正直「不穏だからすぐに精神科受診を」という短絡的な考え方しかできないようなケアマネさんとは一緒に仕事をすることができません。

たぶん今回の電話のやりとりで、先方のケアマネさんに対する自分の印象は悪くなったと思います。
しかし自分はケアマネさんのご機嫌をとろうと、薬をいっぱい盛るなんてことはしません。
ただ今回の場合は暴力が出てしまっているので、一時的にでも薬の使用は必要かと思いますしそのように伝えましたが…。

よく似たもの同士が集まるといいますが、こうやって考えが合わない人は周囲から淘汰されていくんだろうなぁと思いました。
ただ、患者さんが主役なのになんかおかしいなぁと感じます。

今回のケースでは、その患者さんが以前「悪口を言われているという被害妄想を感じた」のがヒントになると思います。
外来受診の時はいつもニコニコして機嫌が良く不穏になったところなんて一度もみたことがありません。
きっとその方にもちゃんとしたプライドがあるのだと思います。
それなのに認知症患者さんだからといって、特別な態度や言葉遣いなどで接したことで、きっと火がついてしまったのではないかなと思っています。
数ヶ月前にデイサービスを変えていたので環境の変化もあるかとは思いますが、認知症患者さんとして接したのが良くなかったのではないでしょうか?
確かに認知症ではありますが、だからといって「何もできないから」みたいな態度で接するのはよくありません。
認知症であろうと感じることは感じるのですから。

自分は認知症患者さんが話すことは、まずそのまま正面から受け止めます。
たとえ妄想を話しているのだろうと思っても、患者さんが話すことを信じて聞くようにします。
たとえ認知症であろうと、認知症患者さんとしてみないで話を聞いたり接するようにします。
訴えることを真剣に聞けば、きっと何かを感じ取ってくれると思っていますから。
信頼関係を築くことがその後の治療経過にも影響を及ぼします。

かっこいいこと言っているだけかもしれませんが、適当に話を聞き流しながら数分間だけの診療で患者さんと信頼関係を作れるほど器用ではないし名医ではないので…。

確かに認知症診療において抗精神病薬などの薬を使わなければならないケースは少なくありません。
決して薬を否定する立場ではありません。
もちろん薬を使わない方法もありますが、相当の覚悟が必要になります。
ただ抗精神病薬にしろ、睡眠薬にしろ、使いすぎれば脳機能は確実に落ちます
認知症患者さんに安易に抗精神病薬を大量に盛ったり、睡眠薬を盛ることで、認知症がさらに進行します。
不穏などの周辺症状は落ち着くかもしれませんが、人としての「人格」がどんどんなくなっていきます。
その人がどんどんどの人でなくなっていきます。
認知症診療が逆にどんどん認知症にさせることになるのです。
どんどん病人にしていく医療っておかしいです。
医療なんかでなく、病人にして通院させるというただのマッチポンプです。

自分はその人の人格も絶対に大切にしたいと考えています。
抗精神病薬を使わらざるを得ないことも多々ありますが、なるべく少なくすむよう
その人の人格の維持と不穏をおさえるという、そのせめぎ合いでいつも闘っています。
残っている脳機能を少しでも引き出したいと考えています。

愛のない介護をする人にとっては、その人の人格なんて関係なく、とにかくおとなしくしていてくれた方が楽です。
思考能力もない、反抗もしない、何も自己主張してこない。
愛のない介護人はそんな人を求めています(今ではさすがに少ないと思いますが…)。

確かに介護は大変です。
自分は理想論だけを話しているのかもしれません。
けれど何事もバランスが大切です。

薬を出して周辺症状を抑えるなんて簡単です。
思考能力もない、反抗もしない、何も自己主張してこないようにすることなんて簡単です。
今回のケアマネさんのような人は、そういうことをしてくれる先生を重宝するのでしょうね…。
なんとも悲しいしもどかしいですが、それでも成り立ってしまうのが今の世の中です。
高齢者、認知症患者さんがどんどん増えている世の中では。

認知症患者さん。
今は脳機能は昔ほどうまくまわっていないのかもしれないけど、人生の大先輩です。
今の日本を形作ってくれた一人です。
感謝するべき存在です。
遠くの遠く、たどりきれないほどの遠くで何か縁があった人かもしれません。
そして、70年、80年、90年という長い年月のその人自身のいろんな人生・出来事があったはずです。
楽しかったこと、嬉しかったこと、つらかったこと、悲しかったことなど。
それぞれの唯一無二のドラマがあったはずです。
癌や事故で早くに亡くなってしまう人もいます。
認知症の方は、認知症になってしまいましたがちゃんと生かされているのです。
その人の人生を大切にしてあげたいと心から思います。
たくさんの思い出、その人の人格を間違った医療で消し去ってしまうようなことはしたくありません。

今回このケアマネさんによって、自分の信念を再確認することができ
あらためて強い決意を持つことができるようになりました。
嫌みでもなく、感謝しかありません。

毎日が勉強であり、毎日が気づきです。