以前「患者の奪いあい(2025年5月5日)」というブログを書き、訪問診療の世界でも患者さんの奪いあいが起きていることを書きました。
札幌でもどんどん訪問診療クリニックが立ち上がっていますからね。
なんなら本州企業でチェーン店のようなクリニックさえあります。
こんなの、志があって立ち上げたクリニックには到底感じられません。
訪問診療の世界でも患者さんの奪いあいが起きていることは、他のクリニックでも感じているそうです。
聞いた話ですが、そんな実例を紹介します。
「そんな手があったか」と驚きました。
そのクリニックは歴史あるクリニック(Aとします)です。
とある施設での出来事です。
施設の看護師より、
「この施設はいろいろなクリニックが出入りしている。スムーズな連携を図るためにも、できればどこかに集約したい。ついては一人一人の患者さんの毎月の医療費を出して患者さんに提示して欲しい。患者さんに病院を選ぶ権利があるから、他のクリニックとの医療費を比べてもらって、患者さんに訪問診療クリニックを選んでもらう。」
と言われたようなのです。
こんな提言初めて聞きました。
「患者さんに病院を選ぶ権利」があるのは当然のことです。
でもそれって、医療費だけで決めるものじゃないですよね。
しかもその原則をこのように使うことに驚きました。
患者さんに病院を選ぶ権利があることは、日本の特徴でもあります。
しかし施設によっては提携クリニックと強引に契約させようとするところがあるのです。
患者さんや家族は他のクリニックがいい、と主張しても、それじゃ入居できませんとか嫌がらせしてくるんですね。
以前ブログにも書きましたが、日本の医療保険制度の特徴として「フリーアクセス」というものがあります。
(施設選び・とある驚きの施設 2023年10月17日)
上記ブログの中で
・特定のクリニックに制限される筋合いはない
・(特定のクリニックに誘導するのは)患者さんやご家族本位でケアをしていない証拠です。自分の都合、会社の都合しか考えていません。
と書きました。
しかし上記施設の看護師はそれを逆手に取り?医療費だけでクリニックを比較させ、あたかも患者さんが自発的に選んだ風にして特定のクリニックに誘導しようとしたのです。
卑劣なやり方です。
というかよくもまぁこんな悪知恵が働くなと怖くなりました。
「訪問診療にかかる医療費ってどこのクリニックでも同じじゃないの?」
と思われるでしょう。
でもそうじゃないんです。
特に施設の訪問診療においては。
このカラクリはこんな感じです。
国が在宅医療を普及させようとしていたかなり前(20年近く前くらいでしょうか)は、訪問診療の点数はほぼ一律でした。
しかし施設の訪問診療においてまとめて効率よく患者さんを診察しているのと、施設に一人のために訪問診療に行くのと同じ点数というのもおかしな話です。
そして訪問診療クリニックが施設に営業をかけ、入居者の紹介の見返りにキックバックしているところがあるなどが問題となりました。
そして、あるときから段階的に施設の訪問診療の点数が制限されるようになりました。
高い点数に誘惑され訪問診療を始めた医院からしたらハシゴ外しになります。
国はこのようにして、医院をコントロールしています。
そして現在では「施設の訪問診療」に関しては、訪問診療クリニックがその施設において何人患者さんを診ているかで、一人あたりの単価が変わるようになっています。
具体的には、一施設につき
・1人だけ
・2~9人
・10~19人
・20~49人
・50人以上
の5段階に分かれています。
当然「1人だけ」だと点数が一番高く、「2~9人」「10~19人」「20~49人」「50人以上」とだんだんと患者さん一人あたりの単価(点数)は安くなっていきます。
実際には、そのクリニックの年間の看取り件数や他のクリニックや病院と連携しているかで細かく変わってくるところがあるのですが、上記のような「施設でたくさん診るなら単価は安くなる」という大きな流れは変わりません。
具体的には、少し専門的な言葉が出てしまいますが機能強化型在支診(病床あり・月2回以上)の場合、
・1人だけ → 3,185点
・2~9人 → 1,685点
・10~19人 → 1,185点
・20~49人 → 1,065点
・50人以上 → 905点
と大きく点数が変わります。
最大で一人あたり3.5倍近く点数が変わるのですね。
「クリニックがその施設で何人担当しているかで点数が変わる」というのもなんかおかしな話です。
診療の内容は同じでも、自分(患者さん)には関係のないクリニックの都合(その施設で何人担当しているか)によって、自分が負担する医療費が変わってくるのですから。
例えばあるクリニックが、施設で2人の患者さんを診察していたとします。
そこで1人の患者さんが入院してしまいました。
そうなると残った患者さんの医療費は、上記の点数の場合では16,850円→31,850円(10割負担の場合)に跳ね上がってしまうのです。
一人のためだけに施設に診療に行くという手間を考えての点数の変化なのでしょうが、患者さんからしたらなんも関係ないですよね。
患者さん側からしたらなんか解せないです。
ひとまず上記の点数の変化の通り、たくさん診るなら「薄利多売で」って感じになっています。
なんか50人以上とか、どう思います?
これって訪問診療と言えるのだろうか。
みなさんがイメージしている訪問診療とはかけ離れているように感じませんか?
時間も限られているだろうし、当然流れ作業のように診療をこなしていくのでしょう。
でも国はそういうのを想定しているし、だからこういう点数づけをしているのでしょう。
まぁ流れ作業的診療と、一人だけじっくり診療を同じ点数にされたらたまったものではないですが、やはり上記の通り、2人と1人の違いってそんなにないと思うのですけどね。
で、冒頭の話に戻ります。
きっとその施設看護師が誘導したかったクリニックは比較的多くの患者さんを担当していたのでしょう。
一方でAクリニックでは、「2~9人」の患者さんを担当していたようです。
Aクリニックの事務員さんを巻き込んで一人一人の医療費を算出し、患者さんに提示したそうです。
すると他のクリニックの方が安いというので、患者さんは他のクリニックに変更したということなのです。
ちなみに1人だけ今の先生のままがいいと言ったそうなのですが、1人になると上記の通り点数が爆上げになります。
結局「それならば」ということで、その1人も変更することになってしまったそうです。つまり担当していた患者さん全員が他のクリニックに切り替えられてしまったのです。
正直、2人以上の点数をみてもらえればわかりますが、1割負担だったとしたら自己負担分なんて大きな差はありません。数百円レベルです。
そのくらいの変化で慣れたクリニックから変更するというのもなんだか不自然です。
で、この話には裏があって、「医療費だけで」比較させたのではなく、「○○クリニックはなんでもすぐに来てくれるから」という話も入居者の耳にいれていたようなのです。
だけど表向きは、「医療費が安いという理由で入居者さんが自発的にクリニックを変更した」という形にしているのです。
本当ひどい話です。
最初っから、担当患者さん全員を○○クリニックに切り替える予定だったのでしょう。
あからさまに自分は手を汚したくないからとの理由で、余計な手間かけさせやがったのでしょう。
こんなんですよ、今の訪問診療の世界は。
この世界に身を置いているとほとほと嫌になってきます。
ちなみになんでもかんでもすぐにやってくるクリニックが本当に良いのでしょうか?
Aクリニックは本当に必要なときのみに行くという方針だったそうで、自分も同じです。
というかそれが通常のあるべき姿です。
でも患者さんはすぐに来てくれることを望んでしまったりするのですよね。
施設もです。
それは責任を取りたくないから。
例えば37度後半の熱が出たとか、風邪症状があるとか、そのようなことでなんでもかんでも往診に行っていたら医療費がパンクしてしまいます。緊急往診の費用は安くありません。
経過をみてそれで診断するということもありますから「様子をみる」ことも医療の一つです。
しかし今や収益のためになんでもかんでも往診に行くクリニックが存在するのですね。
以前から存在してますけど。
なんでもかんでも行くことを売りにしているのです。
国が問題視しているにもかかわらず。
本当は収益目的なのに、「患者さんのためにすぐ往診します」と宣伝していたりするのです。
本音を隠しているからやっかいです。
施設側も何かあってすぐ呼べば自分たちは責任取らないで済みますからありがたいでしょう。
お互いにとって良い関係なのですね。
実際はいびつなあり方なんですけど。
以前SNSで東京の有名な訪問診療の先生がこのような投稿をしていました。
『往診+看取りの実績の多い医療機関にさらなる評価を、という私たちの法人にとっても大変ありがたい議論が進行中のようですが、もうこれ以上、こっち方面の評価はしなくていいんじゃないかというのが個人的な意見です。
確かに往診が多いって、なんとなく頑張っている感じはするけど、平時の医学管理が雑(だから急変・増悪が多い)、あるいは訪問看護との連携がうまくいっていない(だから全部自分で往診するしかない)、あるいは往診料を稼ぎたい、という側面もあるのじゃないか。』
まったく同感です。
しょっちゅう患者さんが体調変化起こしてしまうというのは、そのクリニックの普段の診療に問題がある場合もあるんじゃないでしょうか。
薬漬けだとか。
適応も十分確認せずむやみやたらにワクチン打っているとか。
訪問診療をやっていると「大変ですね~」とか言われることが多いです。しかも自分なんて医師一人ですから。看護師も一人ですから。
だけど緊急往診に行かなければならない事態なんてそうそう起きません。
それに体調変化を起こしやすい患者さんの場合には訪問看護を入れてもらうようにしています。
何か体調変化があったときは訪問看護の対応で済む場合も少なからずあります。
自分の腕が良いとかそういうことを言いたいのではなくて、平時の医学的管理によっても往診依頼の頻度は変わってくるでしょう。
「こんな処方じゃ体壊すぜ!」みたいな薬漬けの人もいたりしますからね。
平時の管理が悪いくせに、緊急往診でさらに稼ぐなんておかしなことです。意図せずなのかわかりませんがマッチポンプですね。
Aクリニックのようにまっとうにやっているところは割を食うことになるかもしれませんが、訪問診療の世界ももっと国は切り込んでいってもいいんじゃないでしょうか。
それくらいおかしなところが増えてしまっているように感じます。
訪問診療をビジネスとしてやっているようなところです。
考え方が古いんですかね。
昔のイメージのような普通の訪問診療の世界に戻ると良いなと思います。
きっと時代の流れという観点からはそれは難しいのかもしれませんが、ホスピス型住宅問題もそうですが、今や収益目的の施設、訪問看護、訪問診療があまりにも目につくなと感じます。
そこにいる主人公の高齢者の人は幸せなんだろうか、と疑問に感じざるを得ません。
