昨今、外科医がどんどん減っていると言われています。
過重労働であるとか、それに見合った報酬も得られない、訴訟リスクなどを考えると割に合わないと考える人も当然増えてくるのではないでしょうか。
厳しい現実世界を生きていくうえで、崇高な気持ちだけではどうにもならないこともあります。
かくいう自分も20年前に早々外科に見切りを付けてしまったうちの一人です。
今考えると相当早いですね…
当初はいっぱしの外科医になってやろうと思っていたのですが、緊急オペの連続で休日もまともにない状況でした。
まぁ若い頃はどれだけ経験するかですから、体力あるうちに相当な症例を経験できたのはありがたかったかと思います。
でも、「これがずっと続くとしたら…」と考えると将来に夢も希望もないと思ってしまった部分もあります。
ただただ手術の連続で、患者さんとまともに話す時間もありません。
疲れ切っていたので冷静な考えができなかったところもあるかもしれませんが、「何か違う」と悟ってしまったのですね。
決定的だったのが、連続緊急オペの時に、麻酔科の部長が疲れ切って頭を半分うなだれ、オペ室の廊下をフラフラと歩いているのと見たときでした。
まっすぐに歩けていないのです。
壁にぶつかりそうにすらなっていました。
今でもあの光景は鮮明に脳裏に焼き付いています。
以前ブログにも書いたかもしれませんが、他にも理由があり、いろいろタイミングが重なって現在に至る、という感じです。
外科専門医試験の筆記試験も症例数もクリアしてあとは面接だけ、というところで外科を捨てました。
今考えると相当思い切ったことしたなと思います。
自分の性格からは、そこまでいったのならやめる勇気は普通はないのですが…。
パイロットになりたいという気持ちがそのくらい強かったのだと思います(人生のお役目?~自分編 2022年2月9日)。
もっと医者っぽい医者になりたいという気持ちもありましたからね。
もちろん外科だって立派な医者には違いないのですが。
どうせなら町医者っぽい方がみんなの役に立ちそうな気もしたのですね。
ということでいろんな要因があり、急速に外科熱が冷めていってしまった感じです。
現在に至っているこの状態(まさか開業している状態)、まったく夢に描いたことでも何でもないので、不思議な感じです。
あのまま外科医を続けていた世界(パラレルワールドのひとつ?)だったら今頃どうなっていたんだろうとか、ちょっと思いはせてみたりもします。
あまり興味ないのでほんとちょっとしか思いませんが。
無理して外科を続けていたら医療事故を起こしていたかも知れません。
当時は地方の病院でしたが、すでに外科医の過重労働はひどい状況でした。
いずれ外科医不足が深刻化することは簡単に予見できたであろうに、国は何も対策してこなったのですね。
何か対策していたかもしれませんがまったく効果は出ていません。
外科医不足が深刻化してきて、ようやく今になって慌てて対策を始めています。
外科手術に応じて外科医個人に報酬をプラスするとか。
そんな診療報酬体系が今回から始まりましたが、果たしてしっかり機能するかどうかは不明です。
将来はロボット手術だとか遠隔手術で、外科医が不足しても何とかやっていけるのかも、という楽観的な見方もできなくはないですが、そんな甘くはないでしょう。
地方に外科医が存在しない。
都会にいる医師が遠隔によるロボット手術でオペをおこなう。
そんな方法で地方の外科医不足解消に対応できると思ったら大間違いです。
大量出血などの緊急時にすぐに対応できる外科医が結局はその場にいないといけませんから。
侵襲の少ない手術ということで現在ロボット手術がどんどん広まっていますが、トラブルなくすべてうまくいったときはロボット手術のメリットは大いに受けられますが、トラブル時が怖いと思っています。
そんなことを思っているときこんなニュースがありました。
ロボット使った手術で誤って血管損傷、男性患者死亡…北海道がんセンター
このニュースタイトルだけを見ると、ロボット手術の術中に大量出血して亡くなってしまったかのように思われますが、実態は術後に出血していたのにそれに気づかず亡くなってしまったということのようです。
上記は病院が公表している経過報告です。
ドレーンを留置していたのにドレーンからの出血は少量だったと書かれており、でも結局は出血で亡くなっています。
ドレーンの留置位置あるいは留置の仕方が悪かったんじゃないかと勝手に想像しちゃったりしていますが、病理解剖の結果静脈修復部裏面の血管壁に穿孔を認めたとのことだったのようです。
術中は血圧コントロールもしっかりされますから、出血していないように見えても、術後意識が覚醒し体動などが見られたりすれば血圧に変動が見られるのは当然です。
術中に傷つけてしまった部位(静脈)の見えるところはしっかり縫合はしたけれど、見えない部位の裏の部分は完全には破れてはいなかったけど弱くなっていたのでしょう。
その弱くなってしまったところから、血圧の変動なり何なりで突然出血してしまったのかなと思ったりしています。ひょっとしたら留置していたドレーンが、傷ついて弱くなっていた静脈壁に当たってしまったという機械的刺激によって出血が起こった可能性もありますね。
このケースは術後の問題ではあるのですが、ロボット手術の術中に大量出血してしまったときにどうするか問題があります。
通常は即座に開腹手術に切り替えて対処します。
特に動脈性の出血であれば、ロボット手術継続での対応は難しいのではないでしょうか。
ただ現在、開腹できない外科医が増えているというのです。
これは先日同級生と食事したときに聞いた話ですし、本人も問題視していました。
当の本人自体が消化器外科でロボット手術をバリバリこなしているのですが、今の若い外科医には、最初からロボット手術しか経験したことがない人もいて、開腹できない外科医が増えているというのです。
自分が患者だったら、やはりロボット手術可能な疾患であるなら、侵襲の少ないロボット手術を選択するでしょう。
外科医の立場からしても、早期退院が可能なロボット手術が可能であれば、ロボット手術を患者さんに勧めるでしょう。
無駄な開腹手術はしない傾向にあるかと思います。
ある意味当然です。
でもその代わり、若い外科医は開腹手術を経験することがなかなかできません。
そうなると緊急時に対応できない、ということに繋がります。
これ、すごく恐ろしいと思います。
かといってロボット手術が可能なのに、無駄に開腹手術を勧めるのもどうかと思います。
あるいは上記がんセンターのケースでも、ロボット手術だから静脈裏の損傷を見落としてしまったのか、開腹だったら気づけたのか定かではありませんが、もし見えない部位の見落としが増えてしまうようであれば、それも怖いことです。
自分は開腹手術メインの経験でしたし、腹腔鏡・胸腔鏡手術止まりなので、ロボット手術の経験はありません。
ですからロボット手術のことはよくわかりませんが、細かい作業は得意でしょうが、やはり見え方は全然違いますよね。
3D画像もあるのかもしれませんが、画像はあくまで画像です。じかに見るのとはやはり違います。
視覚でじかに術野を見るのと、画面越しに見るのでは全然違いますし、そもそも「視野」自体が違います。
落ちこぼれの古代外科医としては、どうしても「緊急時」の態勢が気になってしまいます。
一般外科医であれば、いくら外科医不足といえど、開腹手術できる外科医はまだ病院内をウロウロしているでしょう。
でも泌尿器科とかマイナーな科ではどうなんだろうと思ってしまいます。
ロボット手術による実績ばかりに目を奪われ、しっかりとした態勢が取られていないケースもあるんじゃないかと危惧しています。
これは腹腔鏡の手術の話ですが、以前こんな事件もありました。
上記と同じく静脈損傷したにもかかわらず、出血コントロールができなかったんですね。
麻酔科医から開腹手術に切り替えるように要請があったのに、泌尿器科医はそれを無視し、結局亡くなってしまいました。
検察が指摘するように「難易度の高い手術方法に対する興味を優先して、無謀な手術を試みた」結果であると思いますし、当時の術者は患者を患者とみていないことが明らかですね。
患者さんの命より自分の実績しかみていなかったのでしょう。
開腹することでせっかくの「腹腔鏡下前立腺摘出術」の一症例が台無しになってしまうのですから。
当時は20年以上前の話ですので開腹できる技量がなかったとは思えません。
ただ今後は自分の実績云々だけではなく、本当に開腹できる医者がいないことが増えてしまうかもしれません。
手術は何が起きるかわかりません。
いくら腕の良い医者でも、人の体はそれぞれです。
手術を受けなければならない事態になったとき、そしてロボット手術を勧められたら、「緊急時に開腹手術できるスタッフは常駐していますか?」と確認するべきでしょう。
いまはまだそんなことわざわざ聞かなくてもちゃんと態勢は整えられていると思います。
しかし今の若い外科医がメインでオペをするようになる10年後20年後はどうなっているかわかりません。
開腹手術ができる外科医はどんどん引退してしまっているだろうし。
とはいえさすがに何でもかんでもロボット手術ができるわけではないですし開腹経験ゼロの外科医はいないと思いますが、以前に比べれば開腹経験は断然と減ってしまうのは間違いありません。
開腹経験が少ないということは、自分の手で直接臓器に触れたことが少ないということです。
開腹経験ゼロということは、直接臓器に触れたことがないということです。外科医なのに。
これはこれで恐ろしいことです。
画面上でしか臓器を見たこともないし、切ったこともない。
まるでゲームの世界のような感じがしてしまいますし、それが外科医なのかと思うと、なんだか心許ないです。
将来の手術はどうなるのか…
10年後20年後の話ですからまたいろいろと事情は変わるかもしれないので、いま考えても無駄かもしれません。
けれど何も考えないで結果的に外科医不足に直面して慌てふためいているのですから、やっぱり予想通りの未来が来るかもしれません。
というか、やはり手術しなければならない事態にならないようにするということが大事なのかと思います。
予防医療ですね。
まぁ癌なんて不意にやってくるものですから完全に防げることはできませんが、毒だらけのこの社会で何かできることはあるはずです。
それに固執しすぎるのもどうかとは思いますけど。
例えば添加物ゼロだとか農薬ゼロに固執して、きっつきつの生活を送る人もいるでしょう。
でもそんな生活がストレスで、逆にそっちの方が病気になっちまうという方もいるでしょう(自分は当然後者)。
無理なくできる人は良いですけど、周囲に強要はいけません。
医原病はわんさかあるし、世の中罠だらけです。
健康面も含め自分の身を守るためには世の中の仕組みを知らないといけません。
それを陰謀論だなんだという人はほっとくしかないでしょう。
皆を説得する気にはなれません。
もはや違う世界線を生きているんだな、と思う人もいっぱいいますからね。
自分で気づかない限り周りがとやかく言おうと無駄でしょう。
自分が疲弊するだけです。肉体的にも精神的にも。
とはいえ周りがとやかく言ってワクチン回避できた人もいますから、絶対無駄とはいいきれないところが難しいです。
でも成功する確率は相当小さいですよね。
外科医の話に戻りますが、同級生の消化器外科医、多くの専門医も持ち本当に立派な外科医です。
でもその一日を聞くと本当大変です。
40代後半で一番脂がのっているとはいえ、帰りが23時過ぎることはザラのようです。
翌日休日でも、子供の習い事のために早朝に送り迎えしたり。
話を聞いていると、よく生きているな、と思ってしまうほどです。
そしてお金の話になっちゃいますが、いくら手術しようと給与は変わりませんからね。
どんなに忙しくても。
アメリカのような医療制度にならないと外科医というのは報われないのかも知れません。
外科医のヤル気だとか奉仕の気持ちに頼ってきた部分は少なくとも是正していかないといけないと思います。
じゃないとますます外科離れは進んでいくでしょう。
働いても働いても報われないんですから。
そして「若手外科医の開腹できないんじゃないか問題」。
これ、結構深刻だと思うんですけどどうなんでしょ。
いずれ手術の際は開腹経験が豊富なヨボヨボのおじいちゃん・おばあちゃん先生が常に待機する、という未来が来るかもしれません。
